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【詩】タルクホースという山

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  タルクホースという山 


 ミネソタにタルクホースという山は存在しない
 同じように
 タマルカンドにオジョーリという川は存在しない

 存在
 しない
 という
 事実
 だけ
 が
 そこに
 存在
 している

 セントポールの街を出て
 クリアブロックを抜け
 タルクホースに登る
 ミネソタの暗い湾を一望することの出来る
 スプリングハウスのような休憩所に座り
 オジョーリの流れに想いを馳せる
 オールド・モンクの煙が
 コリルブルーの空に焼け焦げてゆく
 ブッテロの靴の影
 テュエリー・ミュグレーの香水と
 モルマンド・フレッツェオーニの懐中時計

 何もかもは存在しないという事実だけが存在するということを語る言葉の存在を確かめたくなり存在しない山に登り存在する懐中時計を眺め存在するかもしれない香水と存在するべきではないかもしれない煙の只中に漂いながら言葉を考えるための言葉を考えているしかし存在するものと存在しないものの狭間で言葉は全て存在しないものにしかなれないのかもしれないむしろそれは強烈な存在でありあまつさえ敬虔で傲慢な存在であるかもしれず慰撫し慰撫された存在である可能性すらありそれは本当に存在するはずの存在を隠してしまういや嘘にしてしまういや殺してしまういや存在を根こそぎ剥ぎ取ってしまう

  いや、存在させてしまう。

 タルクホースは実は存在した山かもしれなかった、
 オジョーリも滔々と流れていたかもしれなかった、
 煙、
 空、
 匂い、
 時間、
 私、
 そして言葉までもが、
 タルクホースの頂に存在していたのかもしれなかった、
 オジョーリの冷たい流れに足を浸し
 緑深い春の日を遊んでいたのかもしれなかった、
 
# by tamura_daisuke | 2011-05-17 15:53

【詩】建設 2

【詩】建設 2_a0177592_4382690.gif




  建設 2

 集中していくものがある
 各方角
 各深度から

 豊かに建設されていく無数の島々
 沿岸部から内陸部へ向けて
 集中していくものもある
 またその逆も

 綿花畑は水脈に燃えて
 覆いかぶさるほどの青空を建設した
 僕達の腕はひらたく細い
 建設され得るものと建設され得ないものの狭間で
 僕達の腕はひらたく、細い。

 無数の声が現れて
 消え
 る
 空間が建設されて
 意味のあるものとないものが同時に建設される
 無数の声が消えてまた
 無数の声が現れる
 声はふとく
 重い
# by tamura_daisuke | 2011-05-02 04:39

【詩】紛れ込む

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  紛れ込む


 「うれしい」
 「うれしい」
 「うれしい」
 「うれしい」
 「うれしい」

 この中で本当の「うれしい」は
 たった一つだけ
 それも満足のいく出来ではないけれど

 「かなしい」
 「かなしい」
 「かなしい」
 「かなしい」
 「かなしい」

 この中で本当の「かなしい」は
 ただの一つも無い
 しかし一つだけ
 「うれしい」が紛れ込んでいることに彼は気付かない
# by tamura_daisuke | 2011-03-10 22:37

【詩】板橋~池袋 十分間(自転車)

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【詩】板橋~池袋 十分間(自転車)_a0177592_22333170.gif



  板橋~池袋 十分間(自転車)


 あの人 電柱を右に避けるだろうか左に避けるだろうか

 こっちは自転車だからな 出来れば右が

 今吹くな風 もし吹いてもそっちからは嫌だ

 おっとあのワゴン車速いな

 一旦速度落とさないと みんないっぺんにすれ違っちゃうぞ

 (小さいドアにのっぽ二人つっかえる)

 ラングストン・ヒューズってちょっと顔が怖かったな

 なんであんな写真だったんだろうあの詩集

 けどちょっと日本人の顔つきにも似てたな

 (古い倉、お刺身、ほたるいかの天ぷら、箱の中の猫)

 デューク・エリントンの顔も日本人に見えるって

 ラジオで聴いたことあったな

 なんだここ数日 月が鮮明だな

 月の模様が見えるな

 (女性の横顔、木管楽器)

 ムーン・セレナーデってか

 そういや天体が人体に影響を及ぼすことってあるみたいだね

 科学的な実験結果があるらしい

 占星術はめちゃめちゃ信じてるわけじゃないけど

 タイヤに空気入れといて良かった 調子良い

 (青い表紙の本、黄色い表紙の本)

 けっこう面白い話だよな

 風強いなあ 髪が邪魔だ

 (缶チューハイ、使い捨てカメラ、眼鏡)

 夜空に月が二つとか 普通の大きさと全然違うとか

 SF映画であるよな

 夜ふと眼が覚めて

 窓の外に真っ青な満月が浮かんでたりしたら

 怖いなあ 怖いだろうな

 おー 抜かすなら抜かしてくれ

 でも前から車来てるぞ

 もう暗いから電気つけないと

 都会だと月明かりも頼りないもんだ 田舎よく知らないけど

 (深夜のコンビニのバックルーム)

 でも結局は太陽の光なんだよな これも

 今日駐輪場空いてるな そうか平日だったか

 (公園と公園の間の通り、焼きそば、フルーツ)

 野良猫は良いもの喰ってるな

 あ ムーン・セレナーデはデューク・エリントンじゃなかったな

 (友達に貸しっぱなしのオレンジ色のCD)
# by tamura_daisuke | 2011-02-05 22:34

【詩】メンウフクロウの羽毛 / びーぐる選外佳作

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  メンフクロウの羽毛

 妻が皿を持って立ち上がると
 その横顔が不意に
 目をつむったメンフクロウに似ていることに気付いた
 台所でこびり付いたソースを洗う表情は
 何だか見知らぬ少女の泣き顔にも
 見知った妻の顔のようにも見える
 ワイドショーの音に反応して妻は柊の葉に似る
 メンフクロウはもう何処にもいない

 「この人、かっこいいわよね。演技も素敵だし。
そういえばあなた、この前牛乳屋の佐多さんが
あなたのことかっこいいって言ってたわよ。
たぶん、ジャズを聴きにいくから綺麗な格好を
していた時ね。なんだか凛としてて
柊の葉みたいだって、言ってたわ。
佐多さんて、詩人みたいなこと言うわね」

 皿を洗いながら妻が言う。何だか暮れ方の空のようだ。

 「柊の葉ねえ。俺はこの前会社で、年下の部下にさ、
鈴山さんて百科事典みたいですね、と言われたよ。
喜んでいいのか恥じていいのか、いまいちわからなかったね。
ま、打ちっ放し行って、何も考えないようにしたけど。
あそこの練習場だと俺、おでんの大根みたいだって
友達に言われんだよね。これはちょっとムッするな」

 ソファに埋もれたままで私が返す。

 庭から上がってきた娘が台所を通り過ぎた
 天使の翼のようなものが娘の背中に見える
 床に落ちたのはメンフクロウの羽毛だった



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こんばんは田村大介です。
先日発刊された、『びーぐる』という詩の雑誌の投稿欄にて、僕の『象の島』という作品
が選外佳作に選ばれました。選んで頂いたのは詩人の杉本真維子さん。
選外佳作なので作品は載っていませんが、僕の名前と作品名が載り、そして杉本さん
からの考評も頂いております。
嬉しいなー、自分の名前が活字になったのは初めてだ。もっと良い作品を書いて、選外
ではなく入選になるように頑張ろう!
ちなみに『象の島』はこれからまた推敲していきますので、このブログでの掲載は未定
とさせて頂きます。あしからずー。

ではまた!
# by tamura_daisuke | 2011-02-04 18:46